吉川英治

水は氷のように冷たい。 そして、白い波が、鞍を洗ってゆく。 謙信は、つぶやいた。詩を吟じるように。 「死中、生アリ。生中、生ナシ。嗚呼、珍重珍重。秋水冷やかなるを覚ゆ。謙信、なお死なずとみゆる」 死中、生アリ 生中、生ナシ この語は何かにつけて謙信のいう日常語だった。